|
雲が在るから空の高さを知る事ができる。
今日もひっそりと暮れてゆく。 雲雀が啼いた。 ■■ 「要は巡り廻って立ち位置に戻るのさ、」 軒下から出てきた猫がそう云った。 「前は後ろで後ろは、さて何だと思う。」大きく伸びをしながら猫は問う。 さて、何か。 ぎしぎしと錆付いた思考の螺子を回してみても、ぐわんと音が一度したきりで 何かが燃えた匂いがしただけだった。 髭を震わせ猫は笑う。 「お前ははじめから解っていたのじゃないかい。 解っていたから此処へ来たのだろう。お前が此処へ来る事など最初から知っていたさ。 靴を脱いで隠れたって無駄だよ。 そぅれ、お前の周りは深く抉れた足の跡でいっぱいではないか。」 ぽたり、汗が落ちる。 総てを見渡すまでもなかった。 私の周囲は私の足跡で埋め尽くされ、 ぐるりと抉られた土の矛先は全て私を向いていたのだ。 両の手に持たれていた磨り減った革靴が、音も無く落ちた。 ひらりと塀の上へ飛び乗った猫は、足を組んで歌うように喋る。 「ああ、雲が流れているよ。今日は何と善い天気だ。」 真っ青な空。 みゃあ、と猫が啼いた。 ■■ スコールのような天気雨は靴跡を消してゆく。 傘から覗く空がやけに遠い。 清まし顔の猫が踵を響かせ私の前を横切っていった。 音が止んだ世界に傘を棄て、ふいに振りかえる。 後ろには、 虹が出ていた。 ほぅ、と私は泣いた。 |
|
魚が空を飛んで
鳥が海を泳ぐんだ そんな空想ばかり話す君 風は虹色で 雲は風になるんだ 天を仰いで笑う君 水は飴で 飴は・・・・ごはん! 真剣な顔で話す君 いつだって本気だからかなわない そんなあべこべな世界で じゃあ僕らはどうなる 「変わらないよ」 と また笑う 根拠などさっぱり解らないが 僕もつられて笑ってしまった 君は金管 僕は木管 部屋には音楽で満ちている 「ボクが女の子で キミが優しい人間になるっていう世界も 面白いね」 いつだって一言多い君 雲は流れて 鳥はさえずり 僕の隣に いつも君 変わらない という幸福論 |
|
「やっと 逢えた」
ここにいたんだね そう あのときのぼくだよ また めぐりあうために きみはうまれたんだ もうしんぱいはいらないよ ぼくはここへきたのだけら きゅうに いなくなるなんて びっくりするじゃないか ひとりは さみしかっただろう だからきみは きみは ぼくを さがしていたんだ これからはいっしょだよ そして僕は 眠りから醒めた |
|
自転車こいであの場所へ
「まっしぐら」っていう言葉は 僕のためにあるみたい このスピード きっと時の刻みよりも早くって ちょっとだけ未来を走ってるよ ごめんね こんなに遅くなってしまって でも もう少しなんだ あの場所は変わっていないだろうか 今も太陽は昇っているだろうか ブレーキは もういらない |
|
珍しくピクニックに行きたいだなんて云うから
僕は吃驚したんだ だって君は外へ出るのを嫌うだろ 日焼けしたくないっていつも文句ばっかり 真っ白な君はとても美しいから 僕も大好きだけど 偶には二人で海にでも行きたかったんだ 珍しくピクニックに行きたいだなんて云うから 僕は嬉しかったんだ だって君は僕の運転を嫌うだろ スピードが鈍いっていつも怒ってばっかり 真っ赤なオープンカーで風を切るのは気持ちいいから 僕も大好きだけど 出来るだけ君と二人きりの時間を長く過ごしたかったんだ 違う笑顔の君 ピクニックに行きたいだなんてはしゃぐから 僕は 悲しくなったんだ もうそんな季節なんだね 真っ白いカーテンを翻して 一陣の風 窓の向こうに一本の梔子(くちなし)の木 白い花を咲かせ馨っている 僕は あまりにも幸せでした |



